アジア・フリーク(Asia Freak)

タイを中心にアジア探索の記録

女ひとり、イスラム旅

女ひとり、イスラム旅 (朝日文庫)

女ひとり、イスラム旅 (朝日文庫)

 

 

■レビュー

 

ようやく本書を入手しました。

普段はニュースにならない、イスラーム世界に生きる人たちの人間味溢れる側面が描かれています。

 
「『普通の人の暮らしを発表する媒体なんてないよ』と、当時師事していたフォトジャーナリストは冷たく言い放った。(P59)」
 
ニュースでは、「異常」なことが報じられることが多い。
しかし、物事を捉えるには、「通常、常態」を認識した上でないと、「異常」な変化点であるニュースを適切には理解しづらく、誤認や偏見の助長に繋がる恐れがある。
 
イスラーム」世界をキーワードにしているが、著者も記している通り、各国各地域の人の「心根(P153)」を垣間見ることができる。
 
イスラームがマイノリティーである日本で、「イスラーム」世界の日常を伝える貴重な出版だと思う。

第三章 パキスタン

本書にあるとおり、『誤解されている国』というのは、納得。

マンチャール湖の船上に住む人々が、工業排水などによる汚染も一因で、少なくなっているとのこと。
仏教では、人間の心(正)と、その環境(依)は、鏡のごとく互いに影響(相互作用)していると説く(依正不二)。
イスラームでも、例えば、「ジハード(努力)」は、他者に対してイスラームの規律を説く努力(小ジハード)と、イスラームの規律に則って自己の内面的向上心を図る努力(大ジハード)に分類され、大ジハードがより重要と考えられている。
「ジハード(努力)」も、自己と環境の関係についての概念で、「依正不二」理論と通じるものがあるように思う。

人間の対立にどう対応するかという安全保障ばかりが強調されることが多いが、ここでの環境汚染を一例に、人間と環境という面で、自然や環境の脅威にどう対応するかも、国家、宗教、文化、思想を超えて取り組むべき、重要な共通課題ではないかと改めて認識させられた。

また、船の上での食事が原因で、ひどい下痢になり、塩ひとつまみとウメボシのおかゆを口にした時、「『世の中にこんなおいしいものがあったのか!』と不覚にも涙がこぼれてしまった。」とある。
日本では、憲法改正議論に関連して、「愛国心」とのKey Wordが聞かれるが、上記のような素直な「郷土愛」のような感覚が、「愛国心」なのではと考えさせられる。
対する相手にも同じような感情があると認識するならば、他者への尊敬や配慮の念、というのが自然の帰結で、本書でも話題にある、服装への配慮や、イスラームの人々の他者へのホスピタリティにも、相通じるものがあると思う。

第六章 エジプト

「ロバ」ネタが懐かしい。

老ロバを鞭打って進ませる光景を見ながら、「ロバはエジプトでは見下された動物だ。」というところでは、エジプトでのちょっとしたエピソードを思い出した。

2001年頃、エジプト人の友達と、カイロの下町ダール・エル・サラームの街を歩いていた時、大学生くらいの若いエジプト人に道端で出くわし、紹介された。

『僕、オマル』と名乗った相手に、
『えっ!?、ホマール(ロバ)?』
と、事情の分からない外国人の振りして、咄嗟に聞き返した。

一瞬、時が止まり、事情の分からない外国人を咎めることもできず、聞き間違えとはいえ「ロバ」と言われ、悲しい気持ちにさせたことを思い出した。

Conrad Cairo Hotelでの日本語スピーチコンテストでは、
『ロバは、エジプトには欠かせない動物ですが、エジプト人は、「ロバ」と言われると、とても悲しい気持ちになります。』
と言って、会場に笑いが広がったこともあった。

エネルギッシュで、感情豊かで、思い遣り溢れるエジプトが懐かしく思い出されました。

第七章 シリア

ローカルのカフェが、地域住民の暮らしを支える存在。
孤独死を防ぎ、地域の防災、防犯の観点からも、地域住民を繋ぐ町づくりは、日本に必要な要素だと思います。

『アラブで人が一番良い国。シリア。』

同感です。

2004年、レバノン内では、レバノン政府の要請で治安維持を預かっていたシリア軍が市民に横暴を振るっている現場を目にし、市民からも不満の声を聞いていた。
その後、2005年、暗いイメージをもって行ったシリアでは、多くの親切に、疑いの先入観をもっていたこちらが申し訳ないほど、親切心溢れる国民性だった。

不信と破壊が広がる、今のシリアをもたらした支配者たちの罪は計り知れない。