アジア・フリーク(Asia Freak)

タイを中心にアジア探索の記録

それでも運命にイエスという。

それでも運命にイエスという。 (小学館文庫)

それでも運命にイエスという。 (小学館文庫)

 

 『僕たちは世界を変えることができない。』でカンボジアに学校を建てた葉田甲太さんの日記的な著書。

  日本で医大生として医師国家試験に向けて格闘する一方で、カンボジアで出会ったHIV患者との出合いと別れをドキュメンタリー映画として制作。

  その上映と講演を通して、HIV感染者やHIV患者が、精神的な苦しみを少しでも和らげ、社会的に抑圧されずに生きる権利を得るために、初めての映像制作に挑み、日本全国を奔走する全容が綴られている。

 

  葉田甲太さんとカンボジアに渡り、盲腸で大変な経験をし、脱退したジュンペイさんの様子。その後、ドキュメンタリー映画の制作を引継ぎ支えた小川光一さんの手記もある。

  本人たちが言っているように、葉田さんと小川さんでは、性格が丸で違うことが、それぞれの文章からもよく分かる。

 例えれば、葉田さんがエンジンを駆け目的地へひた向かう操縦士なら、小川さんは規律正しく動き長時間飛行にも耐えるエンジン機械のよう。

 また、医者となった葉田さんは、純粋な人間性と冷静さ、データに基づく判断をし、小川さんは、感性豊かに力強く走り抜く印象をうけた。

 

  本書では、HIV患者への暴言、差別の吐き溜めになっているネットについても紹介されている、そのうち「2010年よりHIV患者の自殺が義務化されます」は今でも残っている。

 

  HIVについて、正しく理解した上で、当事者を苦しめる環境を少しでも無くしたいという思いが強く伝わってくる。

  カンボジアでは、HIV感染とわかると、友人、家族が離れていく、そして、精神的な支えを失って、亡くなっていく。韓国の統計では、3割が自殺とのこと。

  大切なのは、離れることではなく、正しく寄り添って接すること。

 

  暴言、差別の内容を見ると、一面では理解できる内容もある。

  葉田さん、小川さんたちの活動が意図したように、暴言、差別は、一人ひとりの心に根付いた問題なので、制度を改善すれば済むことではない。

  制作したドキュメンタリー映画をテレビで放映して、不特定多数に観てもらうという選択肢より、まずは、日本全国各地を周り、講演、質疑応答を通して、一人ひとりと語り合う道を選んだのは、素晴らしいと思う。

 

  葉田さんたちの活動(映画、書籍など)は、他者を行動に導く力がある。

  動機を得て、専門家でなくとも、とにかく行動して遣りきっていく姿が、そのまま、無限の可能性を証明しているからだと思う。