殺戮荒野からの生還
★レビュー
カンボジアの赤色クメール(クメール・ルージュ)が、国を掌握し、何が起きたのかを知ることができる貴重な一冊。
著者のコンボーン(Kong Vorn)さんは、ジャーナリストとして鍛え上げた頭脳と勘で、何度もの危機を乗り越えた。その内容から、強靭な精神の持ち主だと思う。また、赤色クメールの非道な社会の中でも、カンボジア人の思い遣りある人間性を垣間見るような話しも数多くある。
赤色クメールは、カンボジア全土を掌握し、非道を行なった。
その主導者の一人、ポル・ポト(Pol Pot)は、フランス留学を経験し、中国の毛沢東思想に影響を受けた。赤色クメールの非道は、中国の文化大革命で知識人を一掃するなどのレベルを遥かに越えた非道さだった。
- 欧米、西洋文明の否定
- 資本主義否定
- 先端技術を否定して原始的な技術を採用
- 組織の歯車として人間性の無い個人
- 徹底した監視社会
- 知識人やインテリを徹底して処刑し、自給自足能力のある農民に価値を見出す
こんな人間社会が繁栄するはずもなく、赤色クメールがカンボジアを掌握して、間もなく、内乱、権力乱用の腐敗などが起きている。
ロン・ノル政権は、内部の腐敗・汚職が原因で赤色クメールにあっさりと破れた。
赤色クメールは、教育、知識、先端技術を否定して、ベトナム軍に破れた。
そして、赤色クメールを破った勢力の一人、フン・センは、中国をバックに資本主義経済で発展を続け、貧富の格差が増し社会不満が増す中、野党第一党を解党し、対抗政治勢力を監視取り締まり、権力乱用によって、2018年7月末の選挙で大勝。
カンボジア独立(1953年)以来だけをみても、政治の権力者が代わるだけで、政治の腐敗、権力乱用によって、社会が分断され、教育面、経済面で庶民が恩恵を受けれない状況は同じ。
グローバル化する世界で、独裁政権が長期化する世界の傾向がある中、貧富の差が社会の分断を進め、再びかたちを変えた赤色クメールのような悲惨なことにならないかが、今カンボジアの懸念事項だと思う。
P255
(難民認定され、日本電熱計器で雇用されたコンボーンさん)
『差別と偏見が社風の中から一掃されており、現在も七人のカンボジア人と中国人ふたりが勤めている。しかし、ひとりといえども差別された記憶がない。アジア人に対する差別が強いこの日本にも、このような会社があるということをぜひ知ってほしいものである。』
P272
『国内のことばかりを考えているのではなく、見ず知らずのカンボジアのことまでこんなに真剣に考えてくれる人がいる日本という国は、なんとふところの広い国だろうと思う。』
P277
日本「井の中の蛙、大海を知らず」
『カンボジア人自身にも問題がある。(中略)教育を受けていない人々は、人種偏見がいかにおろかなことであるかということを知らない。』
P278
『私の余生は、カンボジアの子どもたちに夢をあたえる仕事に使うつもりだ。小さな力でしかない。しかし私の訴えは日本人の協力の輪を広げ、三つの学校として結実した。』
『カンボジアを荒野にさせたのは人間のエゴイズムである。そして、それを回復できるのも人間なのだ。』