アジア・フリーク(Asia Freak)

タイを中心にアジア探索の記録

マホメット

マホメット (講談社学術文庫)

マホメット (講談社学術文庫)

 

 

■レビュー

 

  ムハンマドマホメット)という人物に対して、井筒俊彦が捧げてきた情熱的な研究成果をもとに、アラビア半島で起きた宗教革命の時代背景と当時の行き詰まった思想文化の本質ともに解説される。

 

  「イスラーム国」、パレスチナ問題、イスラーム金融、ハラール(宗教教義に違わない食)、近隣のイスラーム教徒、イスラームを信仰するロヒンギャなど、「イスラーム」は、歴史的にも、現在の世界的にも無視できないキーワードだ。

  ニュースの中の話しとしてだけではなく、「イスラーム」について、本質を理解しようとする姿勢が、イスラームを信仰する人たちと、異なる思想をもつ人たちが、それぞれ無用な争いを避けて、発展的な関係を築くためには、必要だと思う。

 

  また、イスラームイスラームにまつわる諸問題を理解するために、ひとつの観点として、イスラームの宗教運動を指揮したムハンマドマホメット)の思想や行動、神の啓示を伝える役割を担った預言者ムハンマドについて理解することが、イスラームを信仰する人たちと接する上で必要だと思う。

 

  イスラーム教徒だと言える条件として、一般に「六信(6つのことは信じている必要がある)」といわれることがある。

唯一神(the God, Allah)、啓典、天使、使徒(預言者)、来世、定命(天命)

  イスラームでは、「最後の預言者」であるマホメットを認めることが、イスラーム教徒の証しの一つとされる。

  イスラームの教義だけでなく、マホメットが啓典に基づいてどう行動し発言し、社会改革し、異教徒と関わったかについて理解することは、現在のイスラームにまつわる問題理解には欠かせない。

 

  こんな理由から、日本ではイスラーム研究草創の第一人者で、世界的にも評価の高い、井筒俊彦の『マホメット』を手にとった。

  マホメットが出現する前後の時代状況、思想に触れながら、マホメット宗教改革を解説するという着眼点が、まず素晴らしい。内容も、広く深い研究データと思索に基づいた解説で、1952年に書かれた論文ではあるものの、2018年現在でも、色褪せず、イスラームを理解する上で本質をついた着眼点が多々ある。

 

  下記、本書最後の言葉は、まさに示唆に富んだ締め括りだと思う。

 

「今やマホメットは歴史の流れの中で堕落し原形を失った永遠の宗教(アブラハムの宗教)を再びアブラハムの昔に、純粋無垢な宗教としての本来の姿にそれを返そうとするのである。しかしながら、彼自身のイスラームも、また一つの歴史的現実として、やがて千転万変の運命の波間に放浪して行くであろうことを、果たして彼は考えなかったのであろうか。メディナの預言者 117ページ)」